2008年7月から2年間、カリフォルニア大学バークレー校 公共政策大学院に留学しています。まとまりのないひとりごとです。


by knj79

行動経済学を政策立案に生かす

経済学のゼミでは、政府の市場への介入はどのような場合に許容されるか、どのような方法での介入が効果的か、という古典的な、しかし重要なテーマを論文を読んで考えている。もう少し正確に言うと、消費者(需要側)、及び生産者(供給側)の判断・行動を、どのような場合に、どれだけ政府に委任(delegate)すると、社会全体として効率的か、ということを検討している。

そのゼミで、行動経済学の主要論文をアサインされ、面白かったので他にもいろいろと探して読んでみた。政府の役割を考えるというテーマだと、行動経済学や情報の経済学、取引費用経済学(というのかな?Transaction Cost Economics)が極めて重要だ。

量子力学や相対性理論を持ち出さなくても、ニュートン力学(古典力学)が日常スケールの運動を記述するのに近似として十分なように、古典的な経済学も多くの場合に「近似」として有効だ。モデルというのはシンプルであればあるほどよい。

しかし、個人や企業が古典的な経済学で予想する行動をとらない場合も多い。行動経済学では、人間の情報処理能力には限界があり(Boundedly rational)、そのため非常に単純なルールを使って意思決定をしていることや、その結果として時に合理的でない(本人の利益を最大化していない)行動をとることを実験などで明らかにする。心理学の論文のようで、まあ、読んでいて非常に面白い。実際心理学者が書いているものも多いわけだが。

情報をきちんと提供すれば個人や企業が各自で考えてそれぞれの利益、ひいては社会全体の利益を最大化できるはず、というのが古典的な経済学が教えるところだった。アメリカにいると、この考え方が非常に支配的だということがよくわかる。野球場のネットのカバー率が低いこと(ライナーが飛んでくると怖い)、国立公園に柵やガードレールがあまりないこと(これも怖い)、小中学校の清涼飲料の自販機を規制しないことなどは、いちいち消費者や生産者の行動を制約するよりも、使用者がリスクを勘案して行動することが効率的という思想から来ていると思う。

しかし、いくつかの条件がそろった場合には、社会の多数派が自らの利益に反する判断(失敗)をしてしまうことが、ある程度行動経済学の知見を使って予測できる。そんなときには、政府が消費者や企業の代理人として情報を集め、合理的な判断を行い、選択肢を(狭めて)提供することも許されるだろう。

しかし、これってパターナリスティック。実はもう少し慎重になるべきで、ざっくり言うならば、
・ 合理的な判断をできない場合に政府が代理人として判断をすることによって結果的に得られる利益
・ そんな中でも合理的な判断ができる人が、選択肢を狭められることによって被る不利益
・ 政府の情報収集、判断、政策実施に要する費用
を全部足し合わせて、プラスになれば、政府が代理人になってもよいということである。

政策を作る側としては、なんとなくそうだろうなと思っていたことが学問として明らかにされていく感じで、結論だけ聞くと「何をいまさら」感があるが、政策を作る際に行動経済学はプラクティカルな概念整理の道具として使えると思う。


9月はバークレーの一番暖かい月。芝生の上でフリスピーをしたり、教科書を夢中で読んだりする人が多い。
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by knj79 | 2009-09-24 14:46 | 公共政策大学院(GSPP)