OPECゲーム: ホテリング・ルール(Hotelling Rule)応用編
2010年 02月 10日
ゲームではまず、約20人の学生に、OPECの国々(7カ国)が割り当てられる。僕のチームはKuwait。石油を生産できるのは、OPECの国々と、それ以外の国々(Rest of the World: ROW)。OPECの国々は、カルテルを作ることができるが、ROWの国々はPrice takerであり、市場で決まる価格に応じて自動的に生産量を決定する。
与えられるデータは3つ。まず、OPEC各国の可採埋蔵量と、一年間の生産容量。この情報は公になっている。残りは、過去のOPECおよび全世界の生産量とその時々の価格のデータ。
これらのデータを元に、各国は利益を最大化することを目指して10年間、生産を行う。なお、10年後には、新たな燃料(代替財)が$70/barrelの価格で登場することが決まっている。
各国は、それぞれの戦略に沿って毎年(現実には毎日)生産量を決定し、提出する。それぞれの生産額は公にはされない。次の日の朝に、全世界の生産量と価格が発表され、それを見て、自分たち以外のOPECの国々がカルテルを遵守したかを推定し、またその戦略を修正してその年の生産量を決定する。それを10年間繰り替えす。
それぞれの年に得られた現金は、銀行に預金をして利子を得ることができる。利子率は5%。
このゲームは過去数年にわたり行われており、ゲームの評価は、過去のKuwaitチームのパフォーマンスと比較してなされる。
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このゲームがわれわれに伝えようとしているのは、比較的生産量の多いプレーヤー(OPECの国々)が市場にいるときに、そのプレーヤーがマーケットパワーを使って利益を最大化するために、どういう行動をとるインセンティブを持っているのかを実感させることなのだろう。
仮に、カルテルを行うことがない市場(完全競争市場)では、いわゆるホテリング・ルール(Hotelling Rule)に沿った価格をとるように生産量を決定すべきである。Hotelling Pathよりも下の価格になりそうなら、10年目に70ドルで売りはらうのがいいし、逆ならその価格でできるだけ多く売ってしまい、早めに枯渇させるのがいい。
一方、OPECが完全に協調することができる場合には、世界の需要曲線とROWの供給曲線の水平方向の差分をResidual Demand Curve(世界がOPECなしには満たせない需要量)ととらえて、OPEC全体の利益を最大化する戦略をとればいい。利益を最大化するには、OPEC全体のMarginal Cost = Marginal Revenueとなる生産量を選べばよいのだが、ここで重要なのは、MCは単なる採掘コストだけではなく、将来のどこかの時点で生産しないことの機会コストを含めることである。
この場合にはOPECの生産量はずいぶん小さくなり、価格を大きく吊り上げ(monopoly price)、OPEC全体の利益をぐっと増やすことができる。
しかし、ことはそう簡単には運ばない。OPECの中の小国、たとえば僕のチーム(Kuwait。OPEC全体の10%の埋蔵量)のような小国にとっては、カルテルを作ろうといいながら、カルテル破りをしてフル稼働で生産することが利益最大化の合理的な戦略なのである。実際、われわれはその戦略をとり、なかなかよいパフォーマンスをあげている。
ただし、この戦略を続けると、OPECの国々が、お互いのことを信用しなくなる。いくつかの国々がカルテルの割当量を超えて生産し、次の年に各国が価格の下落を見て不信感が増加し、さらに多くの国々がカルテル破りをする。業を煮やしたサウジアラビアが生産量を増加させ、価格が暴落する。
おそらくわれわれのゲームも、歴史がたどった経路をたどることになるだろう。
カルテルを守るのは本当に難しい。