2008年7月から2年間、カリフォルニア大学バークレー校 公共政策大学院に留学しています。まとまりのないひとりごとです。


by knj79

希少レント(Scarcity Rent = Loyalty = Marginal User Cost)

「石器時代が終わったのは、石が枯渇したからではない。石油の時代は石油が枯渇するはるか以前に終わる」


というのは、サウジのYamani元石油相の言葉(たとえばこちら参照NY Timesの記事)。気候変動政策に関する本や記事では、よく引用される有名な言葉だ。深い。

ではなぜ石器時代が終わったのか?それは鉄や銅、陶器などの、より便利で安価な代替技術が登場したため。

今回のOPECゲームでは、10年後に$70/バレルの代替バイオ燃料(これはたとえば電気自動車に対する電気でもいいんだけど)が登場するという設定だった。

そういう状況で、産油国はどういう行動をとると、利益を最大化できるだろうか。

石油とか貴金属とか、あるいは大気のような環境財などの非再生資源を長期にわたって使用していくためには、機会費用を考慮に入れないと効率的に(利益を最大化するように)使えない。

その機会費用を、名づけてScarcity Rent = Loyalty (あるいはLoyalty component) = Marginal User Costという(論文や教科書によってばらばらに使われている。用語は統一しないのかな・・・)。

この希少レントが問題になるのは、読んで字のごとく、資源が希少である場合に限る。そのような場合には、現時点で資源を使ってしまうと、将来の資源利用の機会を奪ってしまうことになる。つまり、一時点のことだけを考えて資源生産量を決めるのでは不十分で、将来得られたであろう収益(機会費用)をコストとして計上する必要がある。たとえば、今回のOPECゲームの1年目、採掘費用は$6/バレルだが、希少レント(機会費用)は$39/バレルだった。また、代替技術の価格が高いほど希少レントは大きい。

利益を最大化するためには、産油国は代替燃料が登場するその年までに、すべての石油を売り切る戦略をとらなければいけない。石器時代が終わったのは、銅などの代替財が安価に登場したことを考えると、石油に対する安価な代替財が登場してしまったら、石油を地下に眠らせておくことは宝の持ち腐れになるわけで、その前にすべて売ってしまえということになる。

他方、生産量を闇雲に増やしすぎると、価格が下落しすぎる。価格が最適な経路をとるように、各産油国・企業は生産量を決めていく。

また、その生産量の総和が、リザーブの量(経済的に採掘できる埋蔵量)と一致するように生産量を決める。

OPECのようなカルテルがない場合には、いわゆるホテリング価格経路(Hotelling Price Path)が産油国にとっての利益を最大化する価格となる。限界便益MR=価格=限界費用MC(採掘費用+希少レント)となるような価格経路である。希少レントは年を王ごとに大きくなるので、資源価格は年々高まることになる。

この下の図の赤い線がそのホテリング価格経路の例である。この価格よりも高い価格がついていれば、産油国・企業はScarcity rentを考慮しても利益を上げられるので、生産量を増やす。結果、価格は下がる。他方、赤い線よりも低い価格がついていれば、企業は生産するほど損をするので、生産量を抑える。結果として価格はあがる。つまり、価格が赤線より高ければ価格が下がり、価格が赤線より低ければ価格は上がるため、常に価格はHotelling Price Pathに向かう。

d0127680_1631506.jpg

(注:今回すべての価格(青線)がホテリング価格経路(赤線)より上なのは、カルテルを作っていたため。完全競争市場では、価格は赤線の周辺をうろうろするはず。また、完全にカルテルが機能した場合の価格は緑色の線。われわれのゲームでは、完全競争市場と完全協力市場の中間価格をとり続けたことになる。)

さて。温室効果ガスのことを考えると、石油のリザーブが全部産出され、利用されて二酸化炭素として大気に放出されてしまうのは困る。どうすればそれを防げるか、というのを考えるときに、このモデルは有用だ。

たとえば、技術革新により、代替技術(Backstop technologyと呼ばれる)の価格が下がると、Hotelling Price Pathも下がる。つまり、石油を将来のためにとっておく必要が減る(Scarcity rentが減る)ために、産油国は生産を増やすことになる。代替技術の開発を促進すると、結果として産油国に対し、石油増産のインセンティブを与えてしまうわけだ。これが、気候変動政策では非常に重要な示唆であり、悩ましいところ。

これを防ぐためには、生産能力が十分でない段階で一気に代替技術の開発を進めるという方法がひとつ。そうすると、石油から代替技術へのスイッチング時までに生産能力が追いつかない可能性がある。

関連記事
Hotelling's Rule: ホテリング・ルール-枯渇性資源はどう消費されるべきか
OPECゲーム: ホテリング・ルール(Hotelling Rule)応用編
[PR]
トラックバックURL : http://mppryugaku.exblog.jp/tb/10796813
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by 通りすがり at 2010-02-24 03:31 x
すごい勉強されてますね。興味深いです。
石油国の問題は、難しいですよね。技術革新が進んで、人類があまり石油の必要性がなった時、石油国の治安が一気に悪化して、最悪の場合、戦争や先進国へのテロがもっと活発になりそうな気がしそうです。

石油国に新たな産業を作ってあげて、どうにか救ってあげたいとも思います。

ところで、いきなりすみませんでした。たまに、ブログを拝見させてもらってるものです。
Commented by yu at 2010-03-02 10:06 x
>代替技術の開発を促進すると、結果として産油国に対し、石油増産の
>インセンティブを与えてしまうわけだ。これが、気候変動政策では非常
>に重要な示唆であり、悩ましいところ。

ここがなるほどーって思いました。確かにそうですよね。

あと、"Hot,Flat and Crowded"を読んでて思ったことですが、
「石油の高騰は非民主的な政権を持つ石油産出国を支援すること
になる」っていう事実がある一方で、「石油価格が高止まりすることで
代替エネルギーの開発が促進される(石油が高い分ペイする)」という
ジレンマもあるんだな、と思いました。経済的な話だけではなく政治も
大いに絡む難しい問題ですね。。
Commented by knj79 at 2010-03-04 12:47
> 通りすがりさん
石油の必要がなくなる世界が近いうちにやってくるのかどうかは、これからの努力しだいだと思いますが、そのときに資源国がどうなるのかは難しい問題ですよね。石油に代わる産業を作れるかどうかは、産油国が石油によって得られた利益をどれだけ国内への投資にまわせるかでしょうか。
これからもよろしくお願いします。
Commented by knj79 at 2010-03-04 12:53
>yuくん
Friedmanの本ですね。彼は別々の事象をまとめてストーリーを作るのがすごく得意ですよね。僕も面白く読みました。中東のテロの問題という安全保障のメインストリームの問題と気候変動を結びつけることで、より広い層に気候変動の問題を訴えかける優れた手法だと思います。

エネルギーは経済問題でもあり、政治問題でもありますね。だからこそ面白くもあり、ひとつの見方だけでなく、多面的な分析をする必要があると思います。気候変動とはコインの表裏なので、きちんと分析しておきたいものです。
by knj79 | 2010-02-22 16:35 | 環境政策 | Trackback | Comments(4)