2008年7月から2年間、カリフォルニア大学バークレー校 公共政策大学院に留学しています。まとまりのないひとりごとです。


by knj79

SCEIPのしくみ

サンフランシスコ空港からの帰り道、楽しんでもらえたのならいいのだがと考える。

さて、予想どおり春休みがあけて大量の課題に追われている。そのほとんどがグループワークなので、自分のペースでやるわけにもいかず、ペーパーを書いたりテストを受けたりとはちょっと違った対応が必要だ。一週間は終わったが、ほっとする暇もなく土日にも打ち合わせが入るのは気が休まらない。ま、やむをえないか。

今日は簡単にSCEIPのしくみを御説明。かなりうまくできている。

SCEIPのウェブサイト

世に様々な省エネに関する技術はあるが、消費者がその技術を使ってお得に感じないと普及はしない。まずは環境意識が高く裕福な層をターゲットにするのは正しいが、彼らの投資を引き金に、普通の人がメリットを感じて買ってくれるようにしないと市場の拡大もコスト低下も起こらない。

政策的には、まだ商業的によちよち(だけどあとはコスト次第)の省エネ・新エネ技術の市場に民間資金を流すこと。その際、行政がコストをかけることなく自律的な仕組みを作ることが大切だ。

太陽電池でも、二重窓でも、
① そもそも損をするなら誰も買わない。(ペイバックできない)
② また、長期的にお金が儲かる(割引現在価値で考えてもペイバックできる)としても、初期投資が大きい買い物は心理的にも難しい。
③ それをクリアしても、社会的な信用が低くておかねが借りられない or 金利が高い(クレジットヒストリーが悪い)。そもそも太陽電池買うのにお金は貸せません、という銀行の偏見もある。
というような幾重もの壁がある。

このSCEIPは②、③を解決するものである。(①は大量生産やイノベーションによるコスト低下が必要なのでSCEIPのターゲットではない)

本プログラムは、カウンティ(州の下部自治体。人口46万人)が、一定の要件を満たす省エネ・新エネ投資に対して資金を貸し出す。最低$2500で、上限はない。対象は、家庭、商業施設の両方を含む。

そして、ここがAdministrative costの面で重要なのだが、設備投資をした者は、固定資産税に上乗せして返還をしていく。既存の徴税のシステム使うので、カウンティには資金回収のコストが追加的にかからない。また、ローンのLien(デフォルトした時に優先して差し押さえる権利)をカウンティが有するので、貸し倒れしても資金回収が可能。

太陽電池を取り付けようしている家庭や商業施設にとっては、
・ 銀行ではお金を借りられなくても、技術要件を満たしていればカウンティがお金を貸してくれる。
・ 初期投資がゼロで済むので、手元資金がなくても買える。
・ 民間資金より低金利。
というようなメリットがある。

貸し出しは来月から始まる。
今年度の貸出枠は$20M(20億円)。これから10年間で$100Mにしていく予定だ。今年度はカウンティの基金を取り崩して貸し出しているが、そこはアメリカ、もちろんこのローンも証券化する予定(現在検討中)。
ただし、このプログラムのための行政コストを勘案すると、ブレイクイーブンポイントが$*M(公表されてないので書けない)なので、なんとかこれは初年度に超えたい。自治体でも収支をシビアに考えている。
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Commented by baya at 2009-04-11 14:15 x
エネルギー部局と徴税部局が、部局の垣根を越えて、大胆なコラボをできちゃうところがすごいですね。カウンティレベルだからってのもあるんだろうけど、エネルギー部局(あるいは環境部局?)の発言権の大きさがうかがえます。
ところで、ちょっと気になったんだけど、この施策の場合、クラウディングアウトは気にしなくていいのかな?そもそも、民間銀行で、太陽電池のinstallに融資してるところがほぼ皆無なのであれば、少なくともミクロ的には気にしなくて良さそうだけど。$100Mって額は、マクロ的にみたときにどうなんだろ?
Commented by knj79 at 2009-04-11 14:26
これは環境部局のリードですねえ(なぜかWater Agency)。
また次のエントリで書きますが、これはカリフォルニア州の法律に基づいて、州は直接手を下さないけど自治体でやってくれ、というものです。違う部局が連携するのは下のレベルの方がやりやすいですもんね。

おっしゃるとおり、クラウディングアウトは問題になりえますよね。民間銀行よりも有利な条件(公的な徴税のインフラ)を使って融資業務をやっているわけですから、民業圧迫といわれる可能性はあります。今はペイバックまでに20年かかるような状況なので民間も参入しませんが、今後太陽電池のコストが下がり、他方で電気代が高くなってペイバック期間が短くなれば、民間もどんどん貸出額を増やすと思います。そんな未来がくればいいんですが・・・。
Commented by Masaaki at 2009-04-11 21:32 x
初めてコメントさせていただきます。

日本でもつい最近、小宮山前東大総長が「自立国債」という形で同種の提案をしていました。

なぜか財投を利用した低利融資制度ではなく、真水での財政支出をした上で、何らかの形で国に返還させるというスキームのように見えるので、市場を活用していない点にも疑問が残りますが、彼我の差を感じるのは、明確な数字をもって議論されていないところです。つまり、家計がいくらコスト削減ができるのか明らかにされないまま、ふわふわとした議論になっています。実は、環境省が削減コストを試算しているのかもしれませんが。

ただ、SCEIPについて疑問なのは、削減コストの算定にあたって、売電価格や発電所から供給される電気料金は、太陽光発電の普及により変化すると前提されているのでしょうか。この手の議論を聞くと、足元の売電価格や電気料金を前提にした試算をしているのではないかと邪推してしますが、当然、太陽光発電が普及すれば、従来の発電所が規模の経済を失ったり、売電の普及による供給過剰のため、価格の下落が起きるので、そういった前提がされていなければ、国民を欺くような試算であるような気がしてならないのです。
Commented by knj79 at 2009-04-13 06:05
> Masaakiさん
コメントどうもありがとうございます!
おっしゃるとおり、家計のコスト削減(marginal cost, $/kWh)が電気代($/kWh)を下回らないと家計が設備投資をする意味がないので、我々のコンサルティングでもMarginal costの算定を第一に行っています。

また、売電価格や電気料金は、ご指摘のとおりpartial equilibrium analysisでは十分でない(renewable energyの導入により他の需給も変化する)ので、バークレーの先生(Holst先生)がカリフォルニア州レベルのgeneral equilibrium analysisを行っており、そこで用いた数値を使う予定です。フロリダ州も同様の計算をしています。日本で同様の計算がおこなわれているかは情報を持っていませんが、ご指摘の点はこの手の政策の費用対効果を考える上で必要不可欠ですよね。

貴重なご意見どうもありがとうございます。今後ともよろしくお願いします!
by knj79 | 2009-04-11 14:00 | 環境政策 | Trackback | Comments(4)