2008年7月から2年間、カリフォルニア大学バークレー校 公共政策大学院に留学しています。まとまりのないひとりごとです。


by knj79

Hotelling's Rule: ホテリング・ルール-枯渇性資源はどう消費されるべきか

資源経済学の古典、Hotellingの論文(1931)からHotelling's Ruleについて、簡単にまとめてみる。何かの参考になれば幸い。

H. Hotelling, (1931). The Economics of Exhaustible Resources. J. Polit. Econ., Vol. 39: 137-175

石油や銅などの有限な資源を、どのような価格設定で、どの程度のスピードで使いきるのが最適なのか。ホテリングのモデル(Hotelling's Model)は、その問に対して、いくつかの仮定のもとでの理論的な解を与える。1931年に発表された本論文は、当時全く関心を払われなかったものの、70年代のオイルショックにおける産油国の価格つり上げが彼のモデルに合致すると思われたことから、経済学者たちから急速に関心を集めた。その後、本論文は資源経済学(Resource Economics)という一分野を築く土台となった。


本論文の背景には、当時盛り上がりつつあった、「石油や鉱物、森林といった天然資源の価格が安すぎるために、過度なスピードで消費されている」という議論がある。では、そもそもどの程度の価格が適当だといえるのだろうか?その価格を決めるクライテリアは何か?また、将来的には枯渇する資源であるのだが、どのような速度で使いきるのが適当と考えられるだろうか?あるいはいつまで枯渇させずに使い続けるのだろうか。それはなぜだろうか。

また、経済学の観点からは、定常生産を際限なく続けることはできない枯渇性資源(通常の生産要素なら可能)を生産する産業は、通常の経済学の理論の枠外であるため、新たに理論を構築する必要があった。

ホテリングのモデルは、枯渇性資源の生産者、たとえば石油会社や鉱山会社の価格設定および生産速度に関する意思決定(挙動)を理論化した。独占、生産コストの上昇、税、不確実性等の要素がどのようにその意思決定に影響を与えるかについて、それぞれ検討がなされている。

本モデルでの主な仮定は以下のとおり。
(仮定①)
通常のミクロ経済学の企業と同様に、生産者は、資源を使いきるまでの期間全体で得る収益(正確にはレント)の割引現在価値を最大化することを目指して意思決定を行う。
(仮定②)
生産者が生産できる資源の総量は一定であり、技術革新等によって変動しない。
(仮定③)
生産者は、資源の総量を把握しており、その上で生産、または保全の意思決定を行う。
(仮定④)
生産コストは一定であり、技術革新等によって変動しない。

これらの仮定を満たすためには、生産者(市場)が決定する資源の価格(=採掘のマージナルコストとマージナルユーザーコスト(=Scarcity Rent)の和)のうち、マージナルユーザーコストが利子率と同じ速度で上昇することが求められる。また、生産者(市場)が供給する資源の量は、この価格を満たすように決定される(生産量を減らしていく)。つまり、Hotelling's Ruleは「効率的な生産・市場において、生産者の利益を最大化するためにマージナルユーザーコストが利子率と同じ速度で増加するPrice-pathを選ぶこと(Pt=P0*exp(rt)」とまとめられる。

Hotelling Modelは、上に述べたとおり、枯渇性資源の生産・消費について新たな理論を構築し、その後の資源経済学の土台となった点で重要である。また、大きな仮定を置いているものの、生産者の行動原理を理論的に証明し、独占や税、不確実性がその意思決定にどのように影響を与えるかの検討にも大きな役割を果たし、政策的なインプリケーションは大きい。

他方、現実への適用という点では、現実的ではない仮説を置いているため、取扱いに注意が必要である。1970年代以降の資源経済学の分野では、多くの資源の価格が低下しているという事実とHotelling's Modelをベースとして、資源の希少性は問題にはなりえないという「実証研究」が多数行われた。しかしながら、以下の理由から誤った結論であるといえる。
まず、過去数十年、技術革新による生産コスト低下(仮定④の破れ)、利用可能資源の拡大(仮定②の破れ)がおこり、供給曲線が右方向にシフトした。まず、これによる価格の低下が起こった。
さらに、生産者は資源量に関する十分な情報を有しているとはいえず(仮定③の破れ)、Hotelling's Modelをもって資源価格等のEconomic Indicatorsが資源の希少性の判定に活用できると考えるのは危険である。

以上のように、Hotelling Model、様々な条件下における枯渇性資源の価格変化及び消費速度に関する貴重な知見を与え、その後の資源経済学の発展の基礎として重要である。しかし、技術開発の顕著な昨今、いくつかの仮説は現実性を失っており、Hotelling Modelの結果のみをもって現実社会に適用することは誤った政策的インプリケーションを得ることになりかねないため、注意が必要である。
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Commented by baya at 2009-05-23 02:06 x
あざーす。勉強させていただきました。

このルールが、直接のターゲットにしているのは、「生産者利益の(割引現在価値)最大化」みたいですが、その条件を満たすことは、すなわち、「社会全体が枯渇性資源から得る利益を最大化する」という思想が背後に潜んでいるのでしょうか?当該資源の市場と連関するすべての市場が、market failure freeであれば、生産者の利益最大化=社会全体の利益最大化となるような気はするんですが。感覚的に。。

現実と比べると、かなり仮定がキツい気がしますが(仮定①も、果たして企業の経済活動を反映しているかというと、怪しい気がする)、この"ルール"から得られる具体的な示唆としては、どんなことがあるのか、また教えてください。
Commented by knj79 at 2009-05-31 14:40
おっしゃるとおりです。生産者余剰の最大化が社会的な余剰の最大化となっているわけです。

このモデルを土台として、仮定を緩くしていったり、価格の高い資源にスイッチすることを考えたり、と発展しているので、このモデルだけで政策的なインプリケーションを考えるのは難しいかもしれません。
by knj79 | 2009-05-21 07:33 | 環境政策 | Trackback | Comments(2)