2008年7月から2年間、カリフォルニア大学バークレー校 公共政策大学院に留学しています。まとまりのないひとりごとです。


by knj79

<   2010年 02月 ( 5 )   > この月の画像一覧

「石器時代が終わったのは、石が枯渇したからではない。石油の時代は石油が枯渇するはるか以前に終わる」


というのは、サウジのYamani元石油相の言葉(たとえばこちら参照NY Timesの記事)。気候変動政策に関する本や記事では、よく引用される有名な言葉だ。深い。

ではなぜ石器時代が終わったのか?それは鉄や銅、陶器などの、より便利で安価な代替技術が登場したため。

今回のOPECゲームでは、10年後に$70/バレルの代替バイオ燃料(これはたとえば電気自動車に対する電気でもいいんだけど)が登場するという設定だった。

そういう状況で、産油国はどういう行動をとると、利益を最大化できるだろうか。

石油とか貴金属とか、あるいは大気のような環境財などの非再生資源を長期にわたって使用していくためには、機会費用を考慮に入れないと効率的に(利益を最大化するように)使えない。

その機会費用を、名づけてScarcity Rent = Loyalty (あるいはLoyalty component) = Marginal User Costという(論文や教科書によってばらばらに使われている。用語は統一しないのかな・・・)。

この希少レントが問題になるのは、読んで字のごとく、資源が希少である場合に限る。そのような場合には、現時点で資源を使ってしまうと、将来の資源利用の機会を奪ってしまうことになる。つまり、一時点のことだけを考えて資源生産量を決めるのでは不十分で、将来得られたであろう収益(機会費用)をコストとして計上する必要がある。たとえば、今回のOPECゲームの1年目、採掘費用は$6/バレルだが、希少レント(機会費用)は$39/バレルだった。また、代替技術の価格が高いほど希少レントは大きい。

利益を最大化するためには、産油国は代替燃料が登場するその年までに、すべての石油を売り切る戦略をとらなければいけない。石器時代が終わったのは、銅などの代替財が安価に登場したことを考えると、石油に対する安価な代替財が登場してしまったら、石油を地下に眠らせておくことは宝の持ち腐れになるわけで、その前にすべて売ってしまえということになる。

他方、生産量を闇雲に増やしすぎると、価格が下落しすぎる。価格が最適な経路をとるように、各産油国・企業は生産量を決めていく。

また、その生産量の総和が、リザーブの量(経済的に採掘できる埋蔵量)と一致するように生産量を決める。

OPECのようなカルテルがない場合には、いわゆるホテリング価格経路(Hotelling Price Path)が産油国にとっての利益を最大化する価格となる。限界便益MR=価格=限界費用MC(採掘費用+希少レント)となるような価格経路である。希少レントは年を王ごとに大きくなるので、資源価格は年々高まることになる。

この下の図の赤い線がそのホテリング価格経路の例である。この価格よりも高い価格がついていれば、産油国・企業はScarcity rentを考慮しても利益を上げられるので、生産量を増やす。結果、価格は下がる。他方、赤い線よりも低い価格がついていれば、企業は生産するほど損をするので、生産量を抑える。結果として価格はあがる。つまり、価格が赤線より高ければ価格が下がり、価格が赤線より低ければ価格は上がるため、常に価格はHotelling Price Pathに向かう。

d0127680_1631506.jpg

(注:今回すべての価格(青線)がホテリング価格経路(赤線)より上なのは、カルテルを作っていたため。完全競争市場では、価格は赤線の周辺をうろうろするはず。また、完全にカルテルが機能した場合の価格は緑色の線。われわれのゲームでは、完全競争市場と完全協力市場の中間価格をとり続けたことになる。)

さて。温室効果ガスのことを考えると、石油のリザーブが全部産出され、利用されて二酸化炭素として大気に放出されてしまうのは困る。どうすればそれを防げるか、というのを考えるときに、このモデルは有用だ。

たとえば、技術革新により、代替技術(Backstop technologyと呼ばれる)の価格が下がると、Hotelling Price Pathも下がる。つまり、石油を将来のためにとっておく必要が減る(Scarcity rentが減る)ために、産油国は生産を増やすことになる。代替技術の開発を促進すると、結果として産油国に対し、石油増産のインセンティブを与えてしまうわけだ。これが、気候変動政策では非常に重要な示唆であり、悩ましいところ。

これを防ぐためには、生産能力が十分でない段階で一気に代替技術の開発を進めるという方法がひとつ。そうすると、石油から代替技術へのスイッチング時までに生産能力が追いつかない可能性がある。

関連記事
Hotelling's Rule: ホテリング・ルール-枯渇性資源はどう消費されるべきか
OPECゲーム: ホテリング・ルール(Hotelling Rule)応用編
[PR]
by knj79 | 2010-02-22 16:35 | 環境政策 | Trackback | Comments(4)

サンフランシスコ、1月

いろいろな顔がある街です。

d0127680_17394367.jpg


d0127680_17411956.jpg
d0127680_17414585.jpg
d0127680_17451576.jpg
d0127680_17452770.jpg
d0127680_17455920.jpg

[PR]
by knj79 | 2010-02-20 17:46 | ベイエリア | Trackback | Comments(0)
授業でやっているOPEC Game。これがなかなかよくできていて、面白い。よく考えて作られたゲームというのは、現実を仮想的に体験する手法として優れている。日本でももっと導入したら教育効果があがると思う。

ゲームではまず、約20人の学生に、OPECの国々(7カ国)が割り当てられる。僕のチームはKuwait。石油を生産できるのは、OPECの国々と、それ以外の国々(Rest of the World: ROW)。OPECの国々は、カルテルを作ることができるが、ROWの国々はPrice takerであり、市場で決まる価格に応じて自動的に生産量を決定する。

与えられるデータは3つ。まず、OPEC各国の可採埋蔵量と、一年間の生産容量。この情報は公になっている。残りは、過去のOPECおよび全世界の生産量とその時々の価格のデータ。

これらのデータを元に、各国は利益を最大化することを目指して10年間、生産を行う。なお、10年後には、新たな燃料(代替財)が$70/barrelの価格で登場することが決まっている。

各国は、それぞれの戦略に沿って毎年(現実には毎日)生産量を決定し、提出する。それぞれの生産額は公にはされない。次の日の朝に、全世界の生産量と価格が発表され、それを見て、自分たち以外のOPECの国々がカルテルを遵守したかを推定し、またその戦略を修正してその年の生産量を決定する。それを10年間繰り替えす。

それぞれの年に得られた現金は、銀行に預金をして利子を得ることができる。利子率は5%。

このゲームは過去数年にわたり行われており、ゲームの評価は、過去のKuwaitチームのパフォーマンスと比較してなされる。

-----

このゲームがわれわれに伝えようとしているのは、比較的生産量の多いプレーヤー(OPECの国々)が市場にいるときに、そのプレーヤーがマーケットパワーを使って利益を最大化するために、どういう行動をとるインセンティブを持っているのかを実感させることなのだろう。

仮に、カルテルを行うことがない市場(完全競争市場)では、いわゆるホテリング・ルール(Hotelling Rule)に沿った価格をとるように生産量を決定すべきである。Hotelling Pathよりも下の価格になりそうなら、10年目に70ドルで売りはらうのがいいし、逆ならその価格でできるだけ多く売ってしまい、早めに枯渇させるのがいい。

一方、OPECが完全に協調することができる場合には、世界の需要曲線とROWの供給曲線の水平方向の差分をResidual Demand Curve(世界がOPECなしには満たせない需要量)ととらえて、OPEC全体の利益を最大化する戦略をとればいい。利益を最大化するには、OPEC全体のMarginal Cost = Marginal Revenueとなる生産量を選べばよいのだが、ここで重要なのは、MCは単なる採掘コストだけではなく、将来のどこかの時点で生産しないことの機会コストを含めることである。
この場合にはOPECの生産量はずいぶん小さくなり、価格を大きく吊り上げ(monopoly price)、OPEC全体の利益をぐっと増やすことができる。

しかし、ことはそう簡単には運ばない。OPECの中の小国、たとえば僕のチーム(Kuwait。OPEC全体の10%の埋蔵量)のような小国にとっては、カルテルを作ろうといいながら、カルテル破りをしてフル稼働で生産することが利益最大化の合理的な戦略なのである。実際、われわれはその戦略をとり、なかなかよいパフォーマンスをあげている。

ただし、この戦略を続けると、OPECの国々が、お互いのことを信用しなくなる。いくつかの国々がカルテルの割当量を超えて生産し、次の年に各国が価格の下落を見て不信感が増加し、さらに多くの国々がカルテル破りをする。業を煮やしたサウジアラビアが生産量を増加させ、価格が暴落する。

おそらくわれわれのゲームも、歴史がたどった経路をたどることになるだろう。

カルテルを守るのは本当に難しい。
[PR]
by knj79 | 2010-02-10 09:59 | 公共政策大学院(GSPP) | Trackback | Comments(0)
修士論文の検討をしながら、久しぶりにまじめに日本の政策について調べている。

外からでは得られない情報がけっこうある。もちろん、組織の中の人にアクセスすれば、情報は出てくるのだが、組織にアクセスできない人の知恵を借りることを妨げていることは間違いない。

よくあるのが、結論の数字だけ出ていること。計算の根拠が見えない。そこがわからないと、建設的な議論ができない。

いろいろ難しいのはわかるけど、情報をオープンにして、できるだけ同じ情報をシェアしたプロが、オープンに議論できることが、健全で、質の高い政策を生むのだと思う。

透明性は大事だ。
[PR]
by knj79 | 2010-02-06 06:56 | 環境政策 | Trackback | Comments(0)
この2年間の学生生活では、働いていたころに比べると、はるかに自由に好きなことをやらせてもらった。将来どう役に立つかという観点だけに縛られず、興味のあることをさせてもらった。研究という観点からは、自分の立ち位置(=政策)という部分をある程度はなれて、授業やインターンを通じて技術やビジネスについてもかじった。

ただ、今学期、最終学期のまとめとして修論を書くにあたって、そして半年後に仕事に復帰するにあたって、自分の立ち位置にもう一度意識的になっている。

気候変動の問題を例にとると、日本政府は、2020年までに90年比25%の温室効果ガスの削減を決めた。この目標を達成するには、幅広い企業、家計の創意工夫が必要になるわけだが、理論上、われわれがとりうる方策は、本当に幅広い。無数にあるといっていい。

その方策を3つに因数分解すると、

(技術オプション)×(ビジネスオプション)×(政策オプション)

となるのではないか。交通、省エネ・新エネ、廃棄物など、幅広い分野でそれぞれに最適な組み合わせを探していかなければいけない。

ここでの肝は、組み合わせが重要だということだ。どれかひとつが優れていても、組み合わせた場合に優れているとは限らない。

さらに、実はここでは最適化という言葉は似合わない。なぜなら、これらを組み合わせを評価する軸は、ひとつではないからだ。環境影響の低減量、それに要するコスト、その際に創出される雇用、それらの地理的な分布、政治的な実現可能性、などが、それぞれの組み合わせを評価する際の評価軸として挙げられる。

最適解はない。

----
これを個人のベースに落とし込むと。

技術、ビジネス、そして政策と、それぞれに、非常に深く広い領域で、一人が全部をカバーすることはありえない。ということは、学べば学ぶほどよくわかる。

第一に、環境問題の解決に携わる人は、各自の領域で、プロとして、解決策を提示できなければいけない。

第二に、最適な組み合わせは、技術・ビジネス・政策それぞれの分野だけを見ていては決して出てこない。その組み合わせの探求は、非常にダイナミックで、トライアンドエラーで探していかなければいけない。このため、各者は真に優れた組み合わせを求めて対話をすることができる土台を共有していなければならない。
[PR]
by knj79 | 2010-02-04 05:09 | 環境政策 | Trackback | Comments(2)