環境安全保障という考え方①
2008年 07月 18日
ご紹介をしたいと思います。
前回のエントリのとおり、本論文は主に開発途上国を
テーマにしています。
燃料・エネルギーや食糧、淡水などなど、人間の生存に不可欠な
再生可能資源に対して人々が十分アクセスできないことを、筆者は
環境上の欠乏(Environmental Scarcity。以下ES)と定義します。
先進国ではこのような欠乏は多くみられるものではないですが、
開発途上国ではおおくみられ、事態はさらに悪化しています。
そして、このESが既にグループ間の紛争を引き起こして
いることをフィリピンやセネガルの事例から具体的に示し、
どのようなメカニズムでそれが起こっているのかを明らかにしていきます。
まずは、人間の活動が紛争にどのようにつながっていくかですが、
簡単にいうとこういう流れになります:
人間の活動量(注)の増加 & 生態系の脆弱性
→ 環境変化(生態系劣化)
→ 社会への影響
→ 紛争
(注)人間の活動量=人口×一人当たり活動量
このモデルで、ESは、以下の3つの原因から主に
引き起こされているといえます。
① 再生速度を超える再生資源の使用による生態系の劣化
② 人口の増加
③ 資源分配の誤り(一部のエリート・地主への集中等)
①、②は全体の欠乏の原因ですが、③は、再生資源の配分の
誤りによる多くの人々の欠乏を引き起こします。
これらが以下のような社会への影響を与えます。
① 食糧生産の低下(これがESの最大の帰結であるといわれています)
② ①による経済活動の低下(多くの途上国の5割以上は農業従事者です)
③ ESに苦しむ人々の移動(農村から都市へ、水や農地のある土地へ)
④ ①~③による社会構造の変化、社会不満の増加等
そして、以下のような紛争が起こります。
① ESそのものによる国同士の紛争(河川の水、漁業、耕地の奪い合い)
→ ただし、これはESが引き起こす主たる紛争ではありません。
② 民族間、グループ間のアイデンティティに基づく紛争
→ 環境難民が、移住先にもともと居住していた人々と紛争を
起こすこと。これが主たる紛争の原因になります。
③ 略奪紛争
ここで筆者(Homer-Dixon)は、ESによって引き起こされる紛争は、
①のような国対国(トルコ対シリアの水紛争など)のものではなく、
国内、あるいは国境での集団間の紛争が多いことを指摘します。
これはいままで持っていたイメージとは異なり意外でした。
と、大筋はこんな感じですが、抽象的です。
次回に事例を交えてご説明すると、もう少しわかりやすくなるかと思います。
(バングラディシュとインド、セネガル河川、フィリピンの事例です)
ご容赦ください。
グリーンライブラリーの内部です。大学の図書館とは思えません。