留学報告1 GSPPのカリキュラムの概要留学報告2 必修科目留学報告3 選択科目最後に、IPA、サマーインターン、修士論文(APA)について説明する。これらはGSPPがもつ政策立案のフレームワークである"Eightfold Path"を活用して、現実の政策課題を解決するプロジェクトである。(Eightfold Pathに興味のある方は、Eugene Bardachの
政策立案の技法を参照ください。アメリカの多くのポリシースクールで用いられている教科書です。)
1) IPA(一年目春学期4単位。Introduction to Policy Analysis)
まず、IPAは、連邦政府やNGO等のクライアントに対して、5名程度のグループを組んでコンサルティングを行うプロジェクトである。私のグループは某自治体をクライアントとし、住宅・商業ビルへの新エネ・省エネ関連投資のための低利債権の発行スキームとその需要規模に関する調査分析を行った。
他のポリシースクールにおいても同様のプロジェクト形式の授業は行われているが、GSPPの特徴は、同校が開発したEightfold Pathという政策立案のフレームワークに忠実にプロジェクトを実施し、同フレームワークを実地で叩き込むことにあると思う。また、一年目にグループプロジェクトが行われるのも珍しいことのようだ。
同フレームワークはGSPPの学生にとって九九のようなものであり、GSPPのすべての授業がこのフレームワークを前提としているといっても過言ではない。IPAでは、プロジェクトに加え練習問題も交えながら、フレームワークの使い方を学んでいく。また、RAND研究所などの優れたシンクタンクのコンサルティングレポートを読み、プロフェッショナルな政策コンサルティングのあり方を学ぶ。また、プロジェクトの最後に行われるプレゼンテーションの準備レクチャーと、最終発表のビデオに基づく教授からの個別指導はプレゼンテーションスキルの向上に非常に有用であった。
一学期間みっちりとグループメンバーと共同作業をすることにより、アメリカ人の中で自分はどう貢献できるのかを肌身で理解することができた。グループメンバーからのフィードバックで最も高い評価を受けたことも大きな自信になった。この経験は、のちのサマーインターンや他授業のグループワークでも活かすことができたと思う。
2) サマーインターンシップ
1年目と2年目の間の夏休みには、最低10週間、フルタイム(週40時間)でインターンをすることが義務付けられている。他のポリシースクールでは一定の職業経験があれば免除されることが多いが、GSPPでは免除は認められない。
インターン先はGSPPのジョブデータベース等を活用して学生が各自応募し、書類選考、面接を行って内定を得る。インターン先は、連邦政府・議会、州政府・議会、国際機関、民間企業、コンサルティング、NGO等にまんべんなく広がる。私の年は、連邦政府や世界銀行、コンサルティングファームなどでインターンをした学生が多かった。なお、私はサンフランシスコのエネルギー企業にてインターンを行った。
GSPPのキャリアオフィスのサポートも充実しており、レジュメの作成方法、面接指導、ネットワーキングの仕方等、ほぼ隔週で学生向けのワークショップを開催している。キャリアアドバイザーもレジュメの添削など親身に相談に載ってくれる。私もインターン探しのためにいくつかに参加したが、キャリアを能動的に展開していく上で重要な考え方やスキルが身につくものであった。
インターン自体は、学校と同じくらいすばらしい学習機会となった。エネルギー政策の受け手である企業の戦略的な行動とは何かを企業内部から考えることは、政策を作る側にいては得られない、貴重な経験であった。また、アメリカの企業での意志決定のスピード感や、幹部のリーダーシップを間近でみることができたことも、参考になった。同僚によれば、同社は巨大なエネルギー企業の本社なのでやや官僚的だということだったが、それでも十分な衝撃だった。
3) 修士論文(APA。二年目春学期9単位)
プロフェッショナル・スクールであるポリシースクールとしては珍しく、GSPPでは修士論文(Advanced Policy Analysis: APA)の執筆が求められる。ただし、これは学術的な論文ではなく、クライアントに対するコンサルティングレポートである。学生は、一年目を終えるとAPAのクライアントを探し始める。そして、そのテーマに応じて指導教官を決定する。学生は8人程度からなるゼミに所属し、毎週行われる3時間のミーティングにおいて、各自の研究の進捗状況を報告し、全員でディスカッションをすることになる。
APAでは、二年間で学んだスキルを総動員して定量分析を含む政策分析を行う。私はDan Kammen教授のゼミに所属し、日本の太陽電池政策の費用対効果分析について研究を行った。
太陽電池政策に関してはCO2削減、雇用創出という目的関数が重要である。また、短期のコストだけではなく、イノベーション(学習効果)及び規模の経済による中長期のコスト削減効果についても考慮に入れる必要がある。
以上を踏まえ、私の研究では、イノベーション政策や雇用創出モデルに関する文献調査を行った上で、コストや雇用に関する過去データをもとに、中長期的な大量生産によるコスト削減の効果も含めた費用対効果計算モデルを構築し、2020年までのCO2削減及び雇用創出に関する動的な分析を行った。また、海外製品に対する価格競争力等の不確定要因も考慮し、政策のリスク管理のために感度分析を行った。
研究の主な結論を要約すると、
・ どのような楽観的な仮定を置いても日本の国内市場は太陽電池の大幅なコスト削減を可能にするほど大きくはなりえない。コスト削減に重要なのは、はるかに巨大な海外市場である。
・ 雇用創出についても、海外市場への輸出が大きな影響を持つこと。すなわち、海外製品に対するコスト競争力と海外市場における日本製品の占有率が雇用の点でも重要であること。
・ このため、二酸化炭素削減・雇用創出のどちらの点でも、国内市場が世界市場を上回る速度で拡大させる政策(固定価格買取り制度等)の費用対効果は低い。
・ 費用対効果を高めるためには、イノベーション及び規模の経済による生産コスト削減が重要である。このため、生産サイドの政策をより重視して実施すべき。
・ 需要サイドの政策としては、国内市場は海外市場と足並みをそろえて拡大するべきであり、再生可能エネルギーの目標(電力需要の10%)は、風力発電等のより安価な再生可能エネルギーを優先的に導入することで達成すべき。
・ 国内目標は、一年間の導入総額の上限を設け、世界的なパネル価格の上昇からの影響から隔離(Insulate)することが有効。
私の修士論文は、エネルギー政策、イノベーション政策、雇用政策を統合的に定量分析する研究は例がなく、かつ国際的に重要性が高いなどの評価を得、幸いにも七十近い修士論文の中からSmolensky Prize(最優秀修士論文賞)を受賞した。